人生100年時代。これから増える老後起業・シニア起業について考える
はじめに
いまや「人生100年時代」といわれるほど、長寿化している日本社会。これまでの社会では当たり前だった、60歳で定年退職した後は年金生活を送るというモデルケースも大きく変化していくこととなるでしょう。国内の労働力確保という観点からも、個人の収入確保という観点からも、「老後にどう働くか」というテーマは非常に重要になってきています。
▼目次
老後起業、シニア起業増加の背景とビジネスの種類
国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の将来推計人口」によれば、2065年には平均寿命が男性84.95歳、女性91.35歳にまで伸びると推定されています。2016年に発表された総務省「人口推計」によれば、少子化とも相まって、日本の総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は27.3%と約3割に到達し、そして2065年には高齢化率は38.4%と約4割に到達する見込みです。
国内の労働生産人口が減少傾向にある中で、シニアの労働力確保は非常に重要なテーマです。また、シニアの方々にとっても、平均寿命がどんどん延びていき「人生100年時代」とも呼ばれる中、仮に60歳で定年退職した後、100歳までの40年をどう過ごすのかということは、人生においてとても大切なテーマともいえるでしょう。
こうした背景に加え、国の起業支援制度の充実などを受けて、最近老後起業・シニア起業が増えてきています。
・増える老後起業、シニア起業
2014年度版の中小企業白書によると、年間約22万3,000人の起業者がおり、その中で3割程度の約7万人が60歳以上のシニアの方々による起業です。1979年の同調査では、その割合は全体の起業者数の1割にも満たなかったことを考えると、確実に老後起業・シニア起業が増えてきているといえるでしょう。
・老後起業、シニア起業にはどんなビジネスがあるか?
では、起業するシニアの方々はどのようなジャンルで起業する傾向にあるのでしょうか。日本政策金融公庫「シニア起業家の開業 2012年度新規開業実態調査」によると、もっとも多いのが医療・福祉の分野で22.1%、次いでサービス業が17.9%、3位が飲食店・宿泊業が14.7%となっています。
また、顧客となる主な販売先としては、一般消費者が66.3%、企業や官公庁などの事業所が33.7%となっています。いわゆるBtoCのビジネスが半数以上を占めるという結果ですが、BtoBの割合が他の世代も含めた全体平均が24.7%という結果と比較すると高く出ています。つまり、シニア起業はこれまでの経験や人脈を活かしてBtoBのビジネスで起業するケースが比較的多いといえるでしょう。
今起業する?老後に起業する?大きな違い
ここまでの話を聞いて、若いうちに起業するか、それとも老後に起業するかどちらがいいのか悩む方も中にはいるかもしれません。どのタイミングで起業するのか、それぞれの特性を理解して、自分のキャリアプランや人生設計に合う方を選択しましょう。
・自営業として起業したいか、会社として拡大していきたいかが大きな分岐点
まず考えるべきは、何の目的で起業をするのかということです。会社として事業や組織を大きくしていきたいのであれば、若いうちに起業することをおすすめします。体力面はもちろんのこと、会社を継続的に発展させていきたいのであれば、老後まで起業を待つのではなく若いうちにスタートをして長期的に発展させていくことを目指すのがよいでしょう。
・経済的なリスクをどう考えるか
もう1つ、目的とセットで考えなければならないのは、経済的なリスクについてです。会社員とは違い、起業するからには自分の収入は自分で確保しなければなりません。組織として会社を運営するのであれば従業員の収入も経営者として守る義務があります。
若いうちに起業することは、たとえ失敗しても再度チャレンジできる余地がある一方、経済的なリスクが伴うことも事実です。子どもがいる方であればなおさら、生活費だけでなく教育費も含めて捻出していく必要がありますので、慎重に考えることが必要でしょう。
逆に、老後起業の場合は、お子さんも独立している可能性が高いことに加え、年金支給もあるため、経済的なリスクは小さいと考えてスタートすることが可能です。
老後起業、シニア起業の強みと注意点
先ほど紹介したように、老後起業・シニア起業は経済的なリスクを小さくすることも可能です。また、定年退職まで会社員として働いてきた方なら、その業種・職種での専門性に加えて人脈なども豊富になっているはず。起業直後の段階でもっとも重要な顧客開拓に関しても、過去の人脈を活かして獲得することができるでしょう。
では、老後起業の注意点とはどのようなものでしょうか。ここで改めて、老後起業・シニア起業のメリットと注意点を整理してみましょう。
老後起業、シニア起業の強み
1.経済的なリスクが小さい
老後起業・シニア起業の最大の強みは、経済的なリスクが小さいことといえるでしょう。年金支給に加えて、子どもも独立している場合が多く、教育費や住宅ローンもすでにかからないという方も多いことかと思います。生活に必要な最低限の収入は、年金支給でまかなうことができるため、経済的なリスクを最小化して起業することが可能です。
2.経験や人脈が豊富
経済的なリスクの少なさに加えて、これまで20歳くらいから60歳の定年までの期間に培ってきた経験や人脈が豊富なこともメリットの1つといえます。先述した「シニア起業家の開業 2012年度新規開業実態調査(日本政策金融公庫)」によれば、7割の方が管理職や常勤役員として働いた経験があり、会社員としてバリバリ活躍していたことがうかがえます。開業直前の勤務先での勤務年数も21年以上が44.2%ともっとも多く、組織の中でスキルやノウハウ、人脈を築いてきた方が多いといえるでしょう。こうした経験や人脈を活かすことができるのが、老後起業・シニア起業の強みです。
3.国からの支援制度が充実している
高齢者の活躍を推進するため、国では老後起業・シニア起業を支援する制度を用意しています。厚生労働省の生涯現役起業支援金や、日本政策金融公庫のシニア起業家支援資金など、老後起業・シニア起業だからこそ受けられる制度がたくさんあります。
老後起業、シニア起業の注意点
1.未経験分野での起業
老後起業・シニア起業で注意するべき点の1つが、未経験分野で起業してしまうことです。先述のように経験や人脈が豊富なことが強みといえるので、それと逆行する未経験分野での起業はあまりおすすめできません。「シニア起業家の開業 2012年度新規開業実態調査(日本政策金融公庫)」を見ると、30年以上経験のある分野での起業が3割を超えている一方で、未経験分野での起業が2割強と、一定以上の方々が未経験分野での起業に挑戦していることがわかります。若いころからの夢を老後に叶えたい、という考えもあるのかもしれませんが、その場合、一定のリスクがあるということは覚悟しておくべきかもしれません。
2.最新の技術やマーケティングノウハウが少ない
IT技術の発達により企業と消費者とのコミュニケーションが大きく変容する中で、営業やマーケティングといった顧客獲得に必要なツールもどんどん変化しています。若い世代に比べ、そうした最新の技術に対するキャッチアップがどうしても弱くなってしまいがちな点が、老後起業・シニア起業のリスクといえます。常に新しい情報に接することや、若い人の意見を謙虚に取り入れる姿勢などが重要です。
3.体力面、健康面のリスク
60歳を過ぎると、若いころのように長時間、睡眠時間も削ってバリバリ働くことは難しいかもしれません。さらに、病気になる可能性も高くなっていきますので、自分に万が一のことがあっても事業が存続していく仕組みを作ることが求められます。
以上のようなリスクも存在するものの、若いころの起業に比べて経済的なメリットや培ってきた豊富な経験などの強みがあることもまた事実です。自分の人生設計や将来やりたいことと照らし合せて、自分なりの起業タイミングを見つけましょう。
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