会社設立登記の流れと、専門家に手続き代行を依頼する場合のポイント
はじめに
個人で始めた事業が軌道に乗ってくると、会社の設立が視野に入ります。会社設立をするためには法務局への登記が必須ですが、登記をする前にはどんな準備が必要なのでしょうか。ここでは会社設立を考えている方のために、登記申請に必要な書類や費用についてまとめました。
▼目次
会社設立登記申請とは
・そもそも会社設立登記とは
会社設立登記とは、取引上重要とされる事項(会社名、所在地、代表者の氏名など)を法務局のデータベースに記録することをいいます。会社の戸籍のようなものだと考えるとわかりやすいでしょう。
審査は法務局の登記官がおこない、記録された情報は一般に公開され、誰でも自由に見ることができます。登記情報の公開は主に次の2つを目的としています。
- 1.会社の信用維持をはかること
- 2.取引相手が安心して取引できるようにすること
会社として取引をする際、登記簿の情報から「発行済株式の総数」や「資本金の額」「役員の氏名」などを知ることができます。こうした情報を手に入れることで、相手の会社と取引をしても大丈夫か迷ったときの判断材料が増えることになります。
・会社設立登記は自分でできるのか?
結論から言うと、自分で会社設立登記の手続きすることは可能です。
ただし、設立のために必要な定款や法人用の印鑑を作成したり、こまごまとした書類を用意したりする必要があります。会社設立を急いでいる場合や、そこまで詳細に調べている時間がないという方には少しハードルが高いかもしれません。その場合、専門家に依頼するという方法をとることもできます。詳しくは「専門家に手続きを依頼する場合の選び方と注意点」の項目を参照してください。
・会社設立登記にかかる費用
ここでは、株式会社を設立する場合を例に紹介していきます。株式会社を設立する際は資本金とは別で25万円ほど費用がかかります。
その内訳が以下のになります。
- 1.収入印紙代(定款に貼るためのもの):4万円
- 2.定款の認証手数料:5万円
- 3.定款の謄本手数料:2千円
- 4.登録免許税:最低15万円
- 5.その他実印の作成代や登記簿謄本の発行代など:およそ1万円
収入印紙代は「電子定款」を作成する場合は不要になりますが、電子定款の作成には特別な機器が必要です。機器の購入などに別途費用がかかることになり、場合によっては収入印紙代より高くなってしまうこともあるので一概にお得とは言えません。
また、登録免許税については資本金の0.7%の金額が15万円を超えていれば、その分の金額を追加で支払う必要があります。
会社設立登記申請の基本の流れ
では、実際に会社設立の登記をする場合どのような手順が必要になってくるのでしょうか。ここでは、申請の基本的な流れを見ていきます。
・法人用の印鑑を作成する
会社設立の際には、最低限3種類の印鑑を作成する必要があります。会社名が決まったら、なるべく早い段階で用意しておきましょう。設立に必須となるのは実印・銀行印・角印の3つです。
<1.実印(丸印)>
実印は、法務局で印鑑登録をすることが法律によって定められているものです。
代表者印や会社実印、法人実印などとも呼ばれます。
通常は慣例により、18mmの丸印を作成することが多いです。
形状に決まりはありませんが、大きさのみ次のように定められています。
“登記所に提出する印鑑の大きさは,辺の長さが1センチメートルの正方形に収まるもの又は辺の長さが3センチメートルの正方形に収まらないものであってはならないとされており(商業登記規則第9条第3項),また,印鑑は照合に適するものでなければならない(同規則第9条第4項)”
引用:法務局Webサイトより「http://www.moj.go.jp/MINJI/minji69.html#11」
<2.銀行印>
銀行印は、金融機関に取引口座を開設する際に必要な印鑑です。
紛失や悪用を防ぐため、実印とは別に用意します。
預金を引き出すときに使用するほか、小切手や手形を振り出すときにも必要となります。
<3.社印(角印)>
社印は領収書や請求書、見積書などの書類(実印まで押さなくても良いもの)へ押印する際に使用します。
こちらも形状に決まりはありませんが、慣例として正方形の角印を作成することが多いです。
・定款を作成し認証を得る
定款とは、設立する会社の商号・事業目的・資本金など会社を運営していくにあたっての基本事項を書面にしたものです。記載内容は会社法によって基準が定められており、会社を設立する際には必ず作成しなければなりません。
株式会社の場合、作成した定款は公証人による認証が必要になります。定款の認証は、設立する会社の本店所在地を管轄している公証役場へ依頼します。
認証を依頼するときはいきなり役場に出向くのではなく、事前に定款内容を送ってチェックしてもらうとスムーズです。依頼の方法は電子メールやFAXなど、役場によっても異なりますので事前に確認してから送ると良いでしょう。
・資本金を振り込む
定款の認証を受けたら、発起人の個人口座へ資本金(出資金)の入金・振り込みをします。
発起人が複数いる場合は、代表する1人の口座へ入金することになります。
このとき個人口座を使用する理由は、登記前に会社の口座を作ることができないためです。
発起人が自分1人の場合など、口座残高に資本金分の残高があれば良いような気がしてしまいますが、これはNGです。必ず資本金額と同額の入金が必要になりますので、面倒でも一度引き出してから再度入金の手続きをおこないます。
入金が済んだら、通帳のコピーを取ります。必要な箇所は次の3つです。
- 1.表紙
- 2.表紙の次ページ(支店名、口座番号、口座名義人が確認できる部分)
- 3.資本金を入金したことが確認できるページ
なお、ネット銀行の場合は通帳がないため、同等の項目が確認できる箇所を印刷する必要があります。
通帳のコピーが用意できたら払込証明書を作成し、上記1)~3)を添付してホチキスで留め、実印を使って割り印をします。これが「払込みを証する書面」となります。
・登記申請
ここまでの準備ができたら、会社設立登記に必要な書類を準備します。
<基本となる必要な書類>
- 1.株式会社設立登記
申請書商号や本店所在地などを記載します。 - 2.登記すべき事項を記録したCD-R
法務省のWebサイト「http://www.moj.go.jp/MINJI/MINJI50/minji50-01.html」よりテキストファイルをダウンロードして記載します。 - 3.登録免許税の収入印紙貼付台紙<
A4用紙の真ん中に収入印紙を貼り付けます(割り印は不要) - 4.定款(謄本)
- 5.設立時取締役,設立時代表取締役および設立時監査役の就任承諾書
発起人以外が役員に就任する場合は必要となります。取締役が1名の場合は、取締役が代表も兼ねることになるため代表取締役の就任承諾書は不要です。 - 6.払込みを証する書面
- 7.印鑑届書
設立する会社の実印を法務局に届け出るために作成します。
書式は法務局のWebサイト設立する会社の実印を法務局に届け出るために作成します。
書式は法務局のWebサイト「http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/COMMERCE_11-2.html」よりダウンロードして記載します。
<定款で定められていない事項があるときに必要な書類>
- 1.発起人の同意書
発起人が割当を受ける株式数、株式発行事項などが定款で定められていない場合は必要になります。 - 2.発起人の決定書
本店所在地に地番まで定められていない、公告の方法を電子定款としURLが記載されていない場合などは必要になります。
<その他、場合によって必要となる書類>
- 1.取締役の印鑑証明書
取締役会を置かない場合は、取締役全員の印鑑証明が必要になります。(取締役会を設ける場合は代表取締役の印鑑証明のみで可) - 2.本人確認証明書
監査役など、取締役以外の役員がいる場合は必要になります。(印鑑証明書でも可)
⇒すべての書類が準備できたら、設立する会社の本店所在地を管轄する法務局へ提出します。
問題がなければ申請から1週間ほどで審査が終わり、登記完了となります。
専門家に手続きを依頼する場合の選び方と注意点
ここまで必要な手続きについてお伝えしてきましたが、「煩雑すぎて自分ではできそうにない」といった人や、「本業に手を取られていて、手続きに時間を割くのが難しい」といった人もいるかもしれません。
そういう人にオススメなのが、専門家などのプロに手続きを依頼するという方法です。
プロに依頼した場合はほとんどが電子定款を作成してくれるため、紙の定款に必要となる収入印紙代の4万円が不要となります。また、手続きにかかる時間を大幅に短縮することができることも大きなメリットです。
では、どの専門家にどんな内容を依頼すれば良いのでしょうか。
・司法書士に依頼する
司法書士は、登記に精通したプロです。後述する士業とは違い、登記申請の手続き代理をすることができます。
逆に言うと、行政書士や税理士が代理で登記申請を行うことはできません。
会社設立の手続きのみを丸ごと依頼したい場合は、司法書士に依頼するのがベストです。
ただしお金の専門家ではないため、会社設立後の税務に関連する相談などは受け付けられません。
・行政書士に依頼する
行政書士は他の士業(税理士・司法書士など)の専門領域以外を取り扱うため、書類作成の知識に関する守備範囲が広いことが特徴です。
定款などの書類までは作成が可能ですが、登記申請の代理をすることは本来できません。
ただ、司法書士と提携して業務を行っている場合などには、会社設立の手続きをすることができます。
行政書士の強みは、許認可の手続きができることです。
設立する会社の業種によっては認可が必要なこともありますので、そういった場合は心強い味方になってくれるでしょう。
・税理士に依頼する
税理士はお金の専門家で、税務処理や決算に関する手続きを得意としています。
行政書士と同様、登記申請の代理をすることは本来できません。
ただ、会計事務所などで司法書士がいる場合や提携して業務を行っている場合などは、会社設立の手続きをすることができます。
税理士の強みは、会社設立後の税金や会計に関する相談ができることです。
登記申請以外にも先々の経営で相談していきたい場合には、税理士や司法書士などのプロを揃えた事務所に依頼すると良いでしょう。
ただし、会社設立登記を依頼すると同時に、設立後の顧問契約を結ぶことを条件にしていることもありますので、よく見極めて選ぶことが肝心です。
⇒会社設立をするときに司法書士・行政書士・税理士のいずれに依頼すると良いかは、設立する業種や規模によっても異なりますのでしっかり比較検討をしましょう。