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開業届とは?個人事業主は提出義務がある?

はじめに

個人事業主になろうと考えたことがある方は開業届という名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。
開業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」、個人事業を開業したときに税務署へ申告するための書類です。

個人事業主になると、所得税や消費税、個人事業税が課税されることになるので開業したことを税務署に報告する必要があります。期限内に報告しないことで罰則があるわけではないですが、実際は事業を開始したら1カ月以内に提出しなければならないと決められているのです。
いつまでに提出が必要か確認し、開業したらなるべく早いタイミングで提出してしまいましょう。

様式は国税庁のホームページからダウンロードできます。提出先は納税地を管轄している税務署です。税務署に持参するか、郵送に合わせて提出しましょう。ちなみに、会社を設立する際は書類の提出とともに費用がかかりますが個人事業主が開業届を提出する場合は特に費用はかかりません。

▼目次

個人事業主が開業届を出すメリットとデメリット

個人事業主になった場合は開業届を提出するように所得税法で定められています。しかし、開業届を出さずに事業を行う個人事業主も一定数存在するのが現実です。ここで個人事業主が開業届を提出するメリットとデメリットを確認しておきましょう。

・開業届を出すメリット

開業届を出す大きなメリットとして挙げられるのが節税効果を得られることです。開業届を出せば個人事業主として認められるため、開業届と合わせて「所得税の青色申告承認申請書」を提出しておくことで確定申告時に青色申告を選択できます。

・青色申告承認申請書を同時に提出するメリット

青色申告承認申請書を提出後受理されれば、青色申告対象者として認められます。個人事業主が毎年行う確定申告は白色申告と青色申告の2種類があります。青色申告は複式簿記の知識が必要になるため白色申告よりも複雑になりがちですが、青色申告で確定申告を行うと最大65万円が所得から控除されます。所得が少なければその分納める税金が減りますので、結果的に大きく節税できるのです。

65万円の青色申告特別控除は、青色申告者のみに設けられた経費項目で白色申告者には認められていません。65万円の控除を受けるための主な条件は下記の通りです。

1.現金主義ではなく発生主義で帳簿を付ける

現金主義の場合、現金が絡む取引のみ帳簿をつけます(例.売上額を現金で受け取った、消耗品を現金で購入したなど)。しかし、発生主義の場合は現金が絡まない取引も帳簿をつけなければなりません。掛けでの取引も記帳対象となるのでご注意ください。

2.単一簿記ではなく複式簿記で記帳する

単一簿記では原則、現金の収支しか記帳しません。しかし、複式簿記は借方・貸方を利用し全ての取引内容を記帳する必要があります。つまり、複式簿記の方が手間はかかるということです。

3.会計ルールを守っている

会計ルールを守ることも大事です。「借方・貸方を使って仕訳処理している」「虚位の報告をしていない」などです。税務調査時に会計ルールを守っていない場合、青色申告が取消となるため要注意。

税務調査の対象になると、税務署は最大で過去7年分の財務諸表を調査します。不正が発覚した確定申告書は、青色申告特別控除をカットした状態で再度納税額を計算します。会計ルールを守らずに確定申告をした人は、税理士にチェックしてもらった方がいいでしょう。税務調査がきっかけで追徴課税が数百万円になった納税者も存在します。

4.確定申告の提出期限を守っている

期日を過ぎての提出は、65万円控除の対象外となります。納期限は毎年3月15日です(3月15日が土日の場合は納期限がズレます)。税務署に締切日を確認したうえで青色申告を行いましょう。

ほかにも青色申告のメリットとして、赤字を翌年以降3年間繰り越せるのも特徴です。3年以内の赤字額であれば繰り越しも可能です。例えば、300万円の黒字が発生した年に過去の赤字額100万円を繰り越せば課税対象額は200万円で済みます。

つまり、赤字企業も節税できるということです。ただ、損失を繰り越すときは確定申告書への記入が必須となるので気をつけましょう。

家族へ支払う給与を全額経費にしたい場合は、青色事業専従者給与も便利です。これは、青色申告者の元で働く家族の給与を経費にできる制度のことです。息子が起業した会社で働く両親の報酬を、経費計上するイメージです。全ての報酬額を計上できる場合もあれば一部分しか計上できない場合もあります。

経費計上額は、労働時間などで異なるため気をつけてください。ただ、別途「青色事業専従者給与に関する届出手続」の書類を提出しないと利用できません。提出期限も決まっていますのでご注意ください。

さらに、固定資産を保有している会社は少額減価償却資産の特例も利用できます。固定資産は一般的には何年かに分けて減価償却が行われます。
しかし、青色申告者は30万円未満の固定資産であれば一括で減価償却できるのです。1年間で計上する費用額を増やせるため、利益額が多いときの節税対策におすすめです。ただし、合計限度額は1期につき300万円までなのでご注意ください。

賢く節税するために欠かせない青色申告をできるようになるのが開業届を提出するメリットといえるでしょう。

また、開業届を提出することで社会的信用が高まります。法人と違って個人事業主には登記制度が存在しないため事業を開始したという公的な証明がありません。開業届を提出していないと事業を始めた証明が何もないので、クライアントに信頼されるのは難しいです。
開業届を提出する際に屋号を決めていれば屋号付きの銀行口座を開設できます。屋号が記載された銀行口座を持っていると、きちんと正規の手続きを踏んで事業を行っている個人事業主だと安心感を与えることができるのです。

さらに、気持ちの問題になってしまいますが、堂々と事業を行えることもメリットとして挙げられます。個人事業主として活動しているにも関わらず開業届を提出しないのは厳密には法律違反です。そのため、開業届を提出しないとどこか後ろめたい気持ちのまま事業を行うことになります。自身が個人事業主であることを自覚して事業に臨むためにも、開業届を期限内に提出しておきましょう。

・開業届を出すデメリット

開業届は提出するよう法律で決められているものなのでデメリットという言い方は少々語弊があります。しかし、気をつけるべきポイントがいくつかあるので確認しておきましょう。

まず、開業届を提出して正式に個人事業主となることで失業手当が受け取れなくなります。これは無職から個人事業主になったと証明されるためです。個人事業主として活動しながら失業手当をもらうことは不正受給ですので注意してください。
また、個人事業主となることで今まで入っていた配偶者の健康保険の扶養から外れることがあります。扶養から外れることで国民健康保険に別途加入する必要が出てくるのでこれまでかからなかった保険料が発生することも。

個人事業主になったらすぐ扶養から外れる場合もあれば、所得が一定額に達するまで扶養に入ることを認めている場合もあるため、配偶者の健康保険組合に確認しておきましょう。そして、これまで配偶者の収入のみで生活していた方が個人事業主となることで、配偶者控除や扶養控除を受けられなくなります。

・青色申告の注意点

個人事業主で開業届を提出しても「事業・山林・不動産所得」以外での青色申告は認められていません。つまり「給与・退職・雑・一時・利子・譲渡・配当」のみの人は青色申告適用外ということです。事業・山林・不動産所得の概要は下記の通りです。

事業所得
・・・自身が経営する事業で発生した所得。経営者や事業家、フリーランスの所得。

山林所得
・・・木や森の伐採などで得た所得。

不動産所得
・・・アパートやマンションの家賃・貸土地・駐車場収入など。不動産オーナーの所得。

なかには「給与所得+事業所得」のように所得が2種類ある人もいます。このケースでも、青色申告が受理される可能性があります。ただし、年収や勤務体系によっては受理されない場合があるため、税務署へ聞いて確認しましょう。

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開業届だけでは不十分?一緒に提出したい書類

個人事業主によっては、開業届以外の書類提出を求められるケースもあります。どんな書類があるか見てみましょう。

1.青色申告承認申請書(青色申告を選択する場合)

青色申告をしたい人は必要な書類です。ルールを守って会計処理をしても、書類を提出しない限り白色申告となります。提出先は納税地の税務署で、期限は青色申告を実施予定年の3月15日まで(1月16日以降に事業開始した人は、2カ月以内に提出)。

記入内容は「納税地、名前、生年月日、職業、屋号」などです。1度提出すれば、翌年以降の提出義務はありません。ただし、会計ルールを逸脱した場合は青色申告対象外となるためご注意ください。

2.青色事業専従者給与に関する届出書(青色事業者が家族に給与を払う場合)

家族へ払った給料を経費計上するときに必要な書類です。提出期限は青色申告承認申請書と同じです。記入内容は「専従者の氏名、年齢、仕事内容、給与額、賞与額」などです。詳細を記入しないと、再提出を求められるため覚えておきましょう。

3.給与支払い事業所等の開設届(従業員に給与を支払う場合)

事務所・事業所などを開設して、従業員へ給与支給する場合に必要な書類です。青色申告対象者以外も提出しなければなりません。提出期限は開設日から1カ月以内となります。記入内容は「開設した企業名、住所地、名前、該当項目へのチェック」などです。

無申告で開設すると、納税額が高くなる恐れがあります。とくに、事業所を複数箇所持っている経営者はお気をつけください。

4.源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(給与を支払う場合で、申告・納税を半年に1回にしたい場合。)

源泉所得税の申告や納税を半年に1度にしたい会社向けの書類です。源泉所得税の申告・納税は通常毎月行われますが申請書を出せば回数を減らせます。提出期限はなく、提出日の翌月より適用されます。

記入内容は「会社の所在地、名称、法人番号、給与支払事務所等の所在地、給与支給者の人数・金額」などです。ただし、給与支給の人数が常に10人以上の企業は利用できないのでご注意ください。

5.個人事業開始申告書(事業税が関係する所得290万円を超える場合)

所得が290万円を超えると個人事業税が発生するため、提出が必要となります。記入内容は「事業主・事業所の住所、氏名、屋号」などです。

ただ、提出先は納税地の都道府県税事務所なので要注意(税務署とは違います)。提出期限を設けている自治体もあれば設けていない自治体もあります。個人事業税の納付を怠ると、延滞税や重加算税などが発生する場合があるため覚えておきましょう。

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開業届の書き方で気になるポイントをチェック

開業届を書く際に、気をつけるべきポイントを確認しましょう。

・マイナンバーと本人確認書類が必須

開業届提出の際にはマイナンバーの記入が必要不可欠です。該当欄にマイナンバーを記入するとともに本人確認書類の写しを添付しましょう。本人確認書類は運転免許証やマイナンバーカードなどです。

・納税地欄に注意

開業届には納税地を記載する欄があります。確定申告は納税地を所轄する税務署で行うことになるので基本的には住民票がある住所地を納税地とします。住居の他に事業所が存在する場合は事業所を納税地とすることも可能です。

・屋号は空欄でもOK

職業欄の隣に屋号を記載する欄があります。
屋号を決めておけば屋号付きの銀行口座を開設できるなどメリットがありますが、決まっていない場合は空欄でもOKです。
後日屋号を設定したいと思ったときに税務署に連絡して屋号を決定できます。

・事業内容は具体的に

事業の概要欄には具体的な事業内容の記入が必要です。どういう事業を行っていくのかをわかりやすく記載しましょう。例えば、ライターであれば「Webメディアでの記事執筆」、Webデザイナーであれば「アイコン等のデザイン」などと記載します。

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まとめ

開業届の提出は正式に個人事業主として活動するための第一歩です。個人事業主になると決めたら早めに提出してしまいましょう。社会的な信用が高まるだけでなく自身が個人事業主であるという自覚を持って事業に取り組むきっかけにもなります。

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